どんな病気で視覚障がいになるの?
眼の網膜の中心部にある「黄斑(おうはん)」はものの形や色、大きさなどを見分けるのに重要。
日本人の視覚障がいの原因となる病気の上位は、緑内障(りょくないしょう)、網膜色素変性症(もうまくしきそへんせいしょう)、糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)、黄斑変性(おうはんへんせい)。
眼の構造
眼の前面には「角膜」があり、そこから入った光は、「水晶体(すいしょうたい)」でピントを合わせ、眼球の内部を満たす「硝子体(しょうしたい)」を通って、眼の奥にある「網膜(もうまく)」に届きます。
そこから「視神経(ししんけい)」を通じて「脳」に伝わり、映像として認識されます。網膜の中心部にある「黄斑」は、ものの形や色、大きさなどを見分ける、とくに重要な部分です。
視覚障がいの原因となる病気
日本人の中途視覚障がいの原因となる病気の上位4つは、緑内障、網膜色素変性症、糖尿病網膜症、そして黄斑変性です(表)。どの病気も、検診やセルフチェックによる早期発見・早期治療と、進行を抑えることが重要です。
表 視覚障害者認定の原因疾患内訳
第1位 | 緑内障 |
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第2位 | 網膜色素変性症 |
第3位 | 糖尿病網膜症 |
第4位 | 黄斑変性 |
【調査概要】2015年度に身体障害者福祉法の認定基準に基づき、新たに視覚障害者認定を受けた18歳以上を対象とし、年齢、性別、原因疾患および視覚障害のグレードを調査した。
Morizane Y et al.: Jpn J Ophthalmol 63: 26-33, 2019. より作表
緑内障
網膜から視神経となって脳に伝える神経線維が障害され、視野が狭くなったり、欠けたりする病気です。
眼球の内部には常に液体が循環していて、眼内には一定の圧力(眼圧)がかかっています。液体の流出部の根づまりなど、さまざまな理由によって眼圧が異常に高くなり、神経線維に障害が起こることで引き起こされます。
網膜色素変性症
網膜に異常が見られる遺伝性の病気です。網膜の光を感受する細胞(視細胞[しさいぼう])の機能維持にかかわる遺伝子の異常により、視野や視力が障害されてしまい、夜盲*や視野が狭くなったり、視力が低下したりします。
- 暗いところでものが見えにくいこと。
糖尿病網膜症
高血糖により、網膜の血管が障害され、血管がつまって異常な血管(新生血管[しんせいけっかん])が発生したり、血管から血液や血液成分が漏れたりして、「黄斑」にむくみが生じて視力が低下する病気です。
糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫
血管は、からだのすみずみまで栄養を届ける働きをしています。高血糖の状態が続くと、血管が傷ついたり、つまったりして、血液の流れが滞ってしまい、その血管につながる臓器が障害され、合併症を引き起こします。
眼の奥にある「網膜」にも血管がたくさんあり、眼の細胞に栄養や酸素を運んでいます。糖尿病により、これらの血管が障害されると、糖尿病3大合併症のひとつである「糖尿病網膜症」を発症します。糖尿病黄斑浮腫は、この糖尿病網膜症に合併して生じる病気です。
糖尿病3大合併症
糖尿病黄斑浮腫
糖尿病によって高血糖の状態が続くと、黄斑にある細かい血管(毛細血管[もうさいけっかん])から血液成分が漏れ出してしまうことがあります。その結果、むくみが生じ、視力の低下が起こることがあります。これが「糖尿病黄斑浮腫」です。
薬剤注射や手術などの治療によってむくみを抑えることで、視力の維持・改善を目指すことができます。
黄斑変性
黄斑に異常が生じ、視力が低下する病気です。加齢に伴う黄斑変性(加齢黄斑変性)が大部分を占めます。
加齢黄斑変性
加齢黄斑変性は、視力にかかわる大切な部分である「黄斑」に新生血管が発生し、血液成分が漏れたり、出血を起こしたりして、視力低下を引き起こす病気です。
年齢を重ねて、黄斑に老廃物が溜まることで黄斑はストレスを受けるようになり、老廃物の周辺で炎症が生じます。炎症が関与して黄斑に新生血管が発生し、血液成分が漏れ出て黄斑周辺の網膜がむくんだり(黄斑浮腫)、黄斑に出血が生じたりして、黄斑を障害します。その結果、ものがゆがんで見えたり、色が違って見えたりして、進行すると見たい部分が見えなくなります。これが「加齢黄斑変性」です。
薬剤注射や手術などの治療によって新生血管からの血液成分の漏れを抑えることで、視力の維持・改善を目指すことができます。
- 加齢黄斑変性には、「滲出型」と「萎縮型」がありますが、ここでは滲出型加齢黄斑変性について説明しています。
加齢黄斑変性になりやすい要因
これまでの調査で、発症のリスクとして次のような因子が知られています1)。
2012年の調査2)における加齢黄斑変性の有病率は1.6%で、年々増加してきています。日本の男性の有病率は、喫煙が関連して女性の4倍以上あることが知られています。
視力を維持していくためにも、早期診断・早期治療、禁煙などの予防が重要です。
- 小沢洋子: 医学のあゆみ 266(12): 9-22, 2018.
- 橋本左和子ほか: あたらしい眼科 36: 135-139, 2019.
監修 名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学 教授 安川 力 先生(2022年5月作成)